書育関連研究論文 書く力は、育む力
 
<書育関連研究論文>

「書育の会」の活動について考える 小野 博 副会長
「記述力の変容を促す書字行動及び書字習慣の追跡と分析」(2008~2010) 代表 鈴木 慶子
「人間の高次脳機能を育む手書き活動に関する調査研究」(2005) 代表 鈴木 慶子
「文字を『書く』ことの活動に関する科学的・実証的研究」(2005~2006) 久米 公→川島 隆太
「児童・生徒の自然科学的能力を構成する国語能力の分析に関する基礎的・実証的研究」(2004~2006) 代表 鈴木 慶子
「書字行為と言語能力の発達との関係に関する経年的研究」(2003~2006) 代表 鈴木 慶子
「書字行為と言語能力及び言語活用能力との相関性に関する研究を進めるための基礎的研究」(2001) 代表 鈴木 慶子

 
「書育の会」の活動について考える
小野 博 副会長
   大学生の学力低下関連の研究・臨床を続けている。最近、大学は中・高の学習内容の学び直し教育に成果を求めるようになった。小・中・高での不勉強を大学入学前後の短期の学習で取り戻すのが難しいことは、小学校の学習内容を十分に理解していない中学生に中学の復習をしても結果がでない大阪の例からも想像がつく。この改善のため「ゆとり教育」をやめ、いやいやながら授業時間を増やしてもその成果は期待できない。むしろ、短時間の集中学習の工夫やその効果の確認方策の検討が重要である。学校関係者が「どうしてこうなったのだろうか」「昔でできていたことがなぜ自分たちにはできないのか」と自ら問い、導いた答えを試すことが求められている。
   改善の一例を述べる。1995年に始まった、中学でのコミュニケーション重視の英語教育の結果、日本人中・高生(特に公立学校)の英語力は下がるばかりである(茨城県の調査)。最近では、大学生の英語力の平均が英検3級レベルであることからもわかる。筆者らは、中高生の英語力の低下について、①今の中学生の能力や学習意欲が限りなく低下し何をやっても身につけることは無理なのか、②今の学習指導要領に添った教育内容や教員の指導力不足に原因があるのか、を調べたくなった。そこで、東京の公立中学校長から「日本一の英語力の学校にしたい」との相談を受け、1年生の学習希望者約160人に、1年間、月3回、土曜日午前中のボランティア授業を行った。中・高・大の教員が話し合い、学習内容を今の子どもたちが興味を示す「おもしろい・分かりやすい・役に立つ」授業を実施し、1年後には約70%の生徒が英検3級に合格した。公立中学日本一の誕生である。この結果から英語力の低下は子どもに問題があるのではなく、教員側にあること、改善可能だということがわかった。最近の大学教員には「文法・語彙はいらない、会話・会話」の英語学習が良いという人はいなくなったが、中・高の英語教員は「今やっている授業ではまずいと思うが、学習指導要領が変わらないと何もできない」と工夫する気持ちすらない教員が多い。しかし、実際には中・高教員が勉強会に集まり、実を上げる学習を工夫し、実績を上げている教員集団もあるのだが。
   私が会長をしていた学会で9月にNHKの早川信夫解説委員に講演を依頼している。「PISA 国際順位は上がったか」と題する講演の要旨が届いた。この中で日本の教育について二つの重要な指摘をしている。日本の子どもは書くのは苦手。OECDは「日本のこどもたちは書いてある文章の中から情報をとりだす力は優れているものの意味を理解したり考えて判断したりするのは苦手だ」と分析している。ここまで、分析してくれているので、あとは、教員のがんばりだ。「書育」が役立ちたい。もう一つ、日本の教育の改善に関しOECDは以下の指摘をしている。教育環境の整備が急がれる。先生たちが生徒に向き合う時間が諸外国に比べ少ない、との指摘。調査で「助けが必要なとき、先生が助けてくれる」と答えた生徒の割合は世界で下から二番目。教師を増やすことも必要だが、先生が生徒に向き合える環境をつくることが差し迫った対応策だ、と述べている。
   このように、具体的な問題点が提起されているので文科省・教員養成系大学・学部関係者、教師一人一人が徹底的に科学的な分析・検討を行い、改善方法を見つけ実行しないと、子どもたちの学力は永遠に低下し続け、ひいては、国力の低下を食い止めることができなくなる。この現状を受け止め、「書育」の観点から、地道な分析・討論・改善への提言が行えるような団体を目指すのが、「書育の会」に求められている社会的意義だと考えるのは私一人だろうか。
(昭和大学客員教授)
   大人数の授業風景
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「記述力の変容を促す書字行動及び書字習慣の追跡と分析」(2008~2010)
代表 鈴木 慶子
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/20530831
研究概要(最新報告)
1) 書字行動と学習意欲の関係が現れやすい項目の策定(〜H20.7鈴木、小野瀬、林)これまでの研究成果をふまえて行う。
2) 「ノートをとること」に関するアンケートと小作文の実施(〜H20.10鈴木、吉村、平瀬)長崎県下の小学生(約900名)を対象にして、上項1)を反映させた「ノートをとること」に関するアンケートを作成し、実施する。あわせて、2種(報告型と創造的解決型)の小作文も行う。
3) 「ノートをとること」に関するアンケートの回答入力と解析(〜H20.12吉村、アルバイター)
3) 小作文の入力(〜H21.3鈴木、平瀬、アルバイター)
4) 小作文評価の観点策定(〜H21.3千々岩、田中)
5) 「ノートをとること」に関するアンケート
   協力校での中間報告会(鈴木、吉村、平瀬)O小学校(H21.2)及びT小学校(H21.3)において、アンケート結果を説明し、それを児童の実態との関係について、担任教師から意見を聴取する。
   回答者として、O小学校では小学校2年生から6年生までの全児童、T小では小学校1年生から6年生までの全児童を対象としている。O小とT小の違い、学年ごとの特徴、担任教師による違い等、今後の分析及び解釈に可能性が広がっている。
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「人間の高次脳機能を育む手書き活動に関する調査研究」(2005)
代表 鈴木 慶子
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/17633011
研究概要(最新報告)
   本調査研究は、文字を手書きする活動と脳の活性化との関係について調査し、文字を手書きする活動の、教育の場における価値を科学的に評価しようとすることを目的とした。そのために、2つの生活介入調査(4週間)と一つの書字習慣調査(1〜2週間)を行い、下記のような構成の報告書を編集発行した(H18.3.31発行予定)。
序 (鈴木)
§1 ニュースの聞き取り調査に関する報告 (鈴木・林・生田)
§2 朗読の聞き取り調査に関する報告 (鈴木・林・生田)
§3 「手書き指数」算出のための基礎調査に関する報告 (鈴木・林)
§4 本調査研究の価値と展望
∫1 国語教育における価値と展望 (浜本)
∫2 書写教育における価値と展望 (久米)
∫3 脳科学における価値と展望 (川島)
   研究組織結果としては、今回の調査では介入期間が短く、また被験者数が統計的に不十分であったために、文字を手書きする活動がそれ以外の認知機能を向上させるという点については認められなかった。
   しかしながら、いくつかの点で、私たちの仮説の正当性を裏付けるデータが出ている。書字を用いた生活介入を大学生などを対象にして長期間続けることは、本調査研究の規模では不可能であるため、将来は、横断的なコホート研究を行うべきであろう。
   その基盤として、書字の習慣を指数化する方法である「手書き指数」を開発していくことが有効であると考える。
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「文字を『書く』ことの活動に関する科学的・実証的研究」(2005~2006)
久米 公→川島 隆太
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/17653120
研究概要(最新報告)
1. 報告書(冊子体)の発行 H19.3に、下記の章立ての研究成果報告書(A4版、全87頁)を発行した。
序(川島)
§1 硬筆による手書き活動時の脳活動に関する報告(鈴木・林・生田)
§2 毛筆による手書き活動時の脳活動に関する報告(久米・鈴木・生田)
§3 書字習慣に関する報告
∫1 「メモをとると話しがよく理解できるか」に関する実験(鈴木・林・浜本)
∫2 「ノートとメモに関するアンケート」調査
§4 書字習慣と教科教育
∫1 手書きメモと脳の活性化(浜本)
∫2 「手書き」を再定義する(鈴木) 「あとがき」にかえて(久米)
2. 成果
1) 小学生を対象にして、硬筆を使用した5つ(視写1、視写2、聴写、暗写、単純計算)の書字活動の、脳活動をNIRSにより測定した。その結果、4つの文字を書く活動は、単純計算よりも、脳を活性化することがわかった。
2) 中学生では、話しを聞くとき、メモを取る者と、メモを取らない者に分かれた。別途、行ったアンケートやテストの結果から、メモを取る者には、下記のような特徴が見られた。
(1) 自発的にノートを取る者が多い。
(2) 国語テスト得点が中位の者が多い。
(3) 備忘メモを必ず取る者が多い。
(4) 情報メモを必ず取る者が多く、ときどき取るじゃが少ない。
(5) ひらめきメモをまったく取らない者が少ない。
(6) 手で文字を書くことが嫌いな者が少ない。
3) アンケートの結果、手で字を書くことが好きな者は、情報メモ及びひらめきメモを取る傾向がある。
以上から、書字活動と知的創造的活動とは関連していることが予測できるので、今後は、その方向で研究を進めていきたい。
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「児童・生徒の自然科学的能力を構成する国語能力の分析に関する基礎的・実証的研究」(2004~2006)
代表 鈴木 慶子
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/1665019
研究概要(最新報告)
1. 研究成果のまとめ H19.3末に、下記の論考をまとめた。H19.5末までには、関係学会での発表に備えて、研究成果報告書(冊子体)を発行する予定である。
序(鈴木)
§1 理科授業における思考の記録に関する一考察(橋本建夫、前野、山口、橋本優花里)
§2 理科ノートの筆記力に関する考察(鈴木、林、金子、黒崎、初村)
§3 理科成績と国語成績との相関に関する調査報告(鈴木、林)
2. 成果
1) §1では、小学生を対象にして、理科における表現力と国語の成績の関連について考察した。その結果、主に、下記がわかった。
(1) 理科総合評価Aの者では、国語総合評価Aの者の割合が有意に高い。。
(2) 理科総合評価Bの者では、国語総合評価Bの者の割合が有意に高い。
(3) 理科総合評価Cの物では、国語総合評価Cの者の割合が有意に高い。
(4) 理科総合評価Aの者では。国語総合評価BおよびCの者の割合が有意に低い。
(5) 理科総合評価Bの者では、国語総合評価Aの者の割合が有意に低い。
(6) 理科への関心・意欲・態度がAの者では、国語総合評価Aの者の割合が有意に高い。
(7) 理科への関心・意欲・態度がBの者では、国語総合評価Bの者の割合が有意に高い。
(8) 理科への関心・意欲・態度がAの者では、国語総合評価BおよびCの者の割合が有意に低い。
(9) 理科への関心・意欲・態度がBの者では、国語総合評価Aの者の割合が有意に低い。
(10) 科学的な考え方がAの者では、国語総合評価Aの者の割合が有意に高い。
(11) 科学的な考え方がBの者では、国語総合評価Bの者の割合が有意に高い。
(12) 科学的な考え方がCの者では、国語総合評価Cの者の割合が有意に高い。
(13) 科学的な考え方がAの者では、国語総合評価Cの者の割合が有意に低い。
(14) 科学的な考え方がBの者では、国語総合評価Aの者の割合が有意に低い。
2) §2では、小学生を対象にして、理科ノートにおける筆記力と関心・意欲、成績との関係について考察した。その結果、下記がわかった。
(1) F小;ノート筆記力と成績(r=0.33)、成績と関心・意欲(r=0.63)
(2) N小;ノート筆記力と成績(r=0.59)、ノート筆記力と関心・意欲(r=025〜0.33)、成績と関心・意欲(r=0.60)
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「書字行為と言語能力の発達との関係に関する経年的研究」(2003~2006)
代表 鈴木 慶子
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/15330193
研究概要(最新報告)
1 最終報告書(冊子体)の発行 H19.3に、下記のような章立ての研究成果報告書(A4版、全146頁)を発行した。
序 (鈴木)
§1 英単語は丁寧に大きく書けばよく覚えられる (仲、竹田、松林、波多野)
§2 小学生児童における「聞く」ことと「書く」ことの関連性に関する研究 -校長先生の話を「聞く」ことが、「書く意識」と「書く力」に及ぼす影響を中心に- (小野瀬、鈴木、久米、岩尾、松永)
§3 ラウンドテーブルの記録 「聞く」活動と、言語能力の発達の関係 -三島小の事例を中心に- (鈴木、小野瀬、田中、長田)
§4 書写教育において字形の個人特性を学習内容化することの意義と可能性 -書写教育の規範性との関わりにおいて- (松本)
§5 カテゴリカル平均パターンを用いたオンライン筆者識別 (宮原、滝川)
2. 成果と課題
1)    英単語の学習では、書いて覚えるという方略は一般的であるが、書いて覚える効果については、先行研究においても、本研究の実験でも確認されない。
   しかし、「書く」「読む」「丁寧に書く」「丁寧に読む」の4条件で実験したところ、「丁寧に書く」効果が、他の条件の2倍以上であった。
   次に、図形及び英単語を書く大きさの学習条件を「小」「中」「大」「特大」として、実験したところ、単語において、主効果が得られた。「特大」の学習条件の際に、他の条件よりも高かった。
2)    三島小の児童の3年間の作文を分析した結果、「文字を書く力」(字形、字間)については、校長先生に話を聞いて書く活動を行った結果、字形、字間の評定は、年度を経るとともに改善する傾向がみられた。
   また、話の後に、校長先生が児童の作文を読む過程を取り入れた場合には、作文を「書く意識」が高まり、「文章を綴る力」の伸びが大きかった。
   今後も、三島小児童の実践を追いかけて、児童の言語能力の発達を観察していきたい。
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「書字行為と言語能力及び言語活用能力との相関性に関する研究を進めるための基礎的研究」(2001)
代表 鈴木 慶子
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/13898008
研究概要(最新報告)
   ITの普及により、近年、手書きする機会が激減している。このことの影響について、巷間では、「漢字が書けなくなった」「漢字を忘れた」などという表現で話題にしている。
   また、忘れた漢字を思い出す際、多くの者は、人指し指を使って指書きや空書の行為を行っている。これらは、文字を手書きすることと、文字を記憶することの相関性について示唆している。
   さらには、文字学習の初期段階(小学校低学年)では、書字力、書写力と作文力とは、ある種の相関性があるとのデータもある。
   以上のような把握にもとづいて、本研究では、文字を手書きする能力と言語能力及び言語活用能力との関係性を本格的に調査することに備えて、基礎的データを収集した。
   その結果、下記のような章立ての報告書をまとめた。
   なお、上記の研究者の外に、佐賀啓男(メディア教育開発センター)、小野瀬雅人(鳴門教育大)、仲真紀子(東京都立大学)、白石寿文(佐賀大学)、原田芙美子(長崎大学)が執筆している。
「書字行為」に関する研究の可能性と必要性
1. 文字とシンボルのデジタル変換への存在論的反省
2. 「書写教育心理学」の可能性と課題
「話すこと」と「書くこと」の違い
「書字行為」と「理解力」との相関性に関する予備的調査
書写力と作文力の相関に関する予備調査
1. 学校紹介文にみる同一児童の1年と3年の比較
2. 書写力と作文力の相関に関する予備調査
「書字行為」と脳の機能
速筆力育成カリキュラム設計のための基礎研究
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